「駆逐してやる!この世から…一匹残らず!」
かつて、壁の中でそう叫んだ少年の瞳は、燃えるような復讐心と、まだ見ぬ世界への希望で輝いていました。
しかし、物語が進むにつれて、その瞳から光は消え、代わりに底知れない「闇」と「覚悟」が宿るようになりました。
『進撃の巨人』の主人公、エレン・イェーガー。
彼はなぜ、仲間を傷つけ、世界を敵に回し、あのような凄惨な結末を選んだのでしょうか?
多くの読者が、彼の行動に衝撃を受け、戸惑い、そして涙しました。
「エレンは変わってしまった」
そう感じる一方で、「エレンはずっと変わっていなかったのではないか」という考察も存在します。
彼の目的は一体何だったのか。
単なる復讐か、島の防衛か、それとももっと根源的な「自由」への渇望だったのか。
この記事では、エレンが掲げた目標を、物語の時系列に沿って徹底的に解剖していきます。
彼がいつ、どこで「地鳴らし」という地獄を選択し、その先にどんな未来(景色)を夢見ていたのか。
私自身の個人的な感情も交えつつ、エレン・イェーガーという一人の人間が歩んだ修羅の道を、あなたと一緒に辿っていきたいと思います。
原作コミックの細かい描写や、アニメで見せた一瞬の表情の裏側まで深掘りしますので、ぜひ最後までお付き合いください。
この記事のポイント
- エレンの目標が「巨人の駆逐」から「世界の破壊」へと変貌した真の理由
- 壁の外の世界に失望し、それでもなお「自由」を求め続けたエレンの原点
- 「地鳴らし」を選択した背景にある、仲間への歪んだ愛と自己犠牲の精神
- 未来の記憶を見たことで生じた「理想と現実の矛盾」と苦悩
- 最終話でアルミンにだけ吐露した「本当の願い」と、彼が目指した“終わり方”
※ネタバレ注意
この記事には『進撃の巨人』のアニメおよび原作コミックスの最終話を含む重大なネタバレが含まれています。
未読・未視聴の方はご注意ください。
【進撃の巨人】エレンの変化と目標:壁の外への憧れから絶望まで

物語の序盤、エレンの行動原理は非常にシンプルでした。
それは「母を殺した巨人を殺すこと」そして「壁の外にある広い世界を見ること」。
しかし、調査兵団として世界の真実に近づくにつれ、彼の目標は複雑に絡み合い、歪んでいきます。
まずは、彼がどのようにして「悲劇の怪物」へと変貌していったのか、その心の動きを丁寧に追っていきましょう。
ここでのポイント
壁の外に憧れた原点と巨人を駆逐するという決意
エレンの原点は、シガンシナ区での幼少期にあります。
アルミンが見せてくれた一冊の本。そこに描かれていた「炎の水」「氷の大地」「砂の雪原」。
これらは単なる風景ではなく、エレンにとっては「自由」の象徴でした。
壁の中で安寧を貪る大人たちを「家畜」と呼び、理不尽な鳥かごの中に閉じ込められている現状に、彼は強烈な不快感を抱いていました。
この「不自由への怒り」こそが、エレンの核となる感情です。
そしてあの日、超大型巨人の襲来によって日常は崩壊し、母カルラは巨人に捕食されました。
「駆逐してやる」という誓いは、少年が絶望的な世界で自我を保つための唯一の支えだったのです。
当初の彼の目標は、物理的な脅威である「巨人」を排除することでした。
しかし、この純粋すぎる殺意と行動力は、彼が「進撃の巨人」の継承者であるがゆえの宿命だったのかもしれません。
「進撃の巨人」は、いつの時代も自由を求めて進み続ける巨人。
エレンの性格は、この巨人の特性とあまりにも合致しすぎていました。

初期のエレンが見せていた、あの真っ直ぐな瞳。いま読み返すと、その純粋さが逆に危うく見えて胸が痛くなります…。
[DMMブックスで原作1巻の「あの誓い」のシーンを読み返す]
※アニメ版も素晴らしいですが、諫山先生の描く初期の鬼気迫る表情は原作でこそ味わえます。
世界の真実を知ることへの執念と島を存続させる選択
ウォール・マリア奪還作戦を経て、ついにたどり着いたグリシャの地下室。
そこでエレンが知った事実は、あまりにも残酷なものでした。
「人類は壁の外にも存在し、優雅に暮らしている」
「パラディ島の人々は『悪魔の末裔』として世界中から憎まれている」
これまで「人類最後の希望」だと思って戦ってきた自分たちが、実は「世界にとっての脅威」だったのです。
この瞬間、エレンの敵は「理性なき巨人」から「壁の外の世界全体」へと拡大しました。
彼の中で「巨人を駆逐する」という目標は、「島を存続させる」という、より政治的で困難な課題へとシフトせざるを得なくなりました。
しかし、世界は対話を望んでいません。
マーレ国をはじめとする諸外国は、パラディ島の資源を狙い、あるいは恐怖心から、エルディア人の絶滅を願っています。
エレンは悟りました。
ただ待っているだけでは、自分も、ミカサも、アルミンも殺される。
生き残るためには、戦うしかない。戦わなければ勝てない。
この冷徹な論理が、彼を支配し始めます。
自由を求め続けた理由と理想と現実の矛盾
そして訪れた、海への到達。
アルミンたちが「海だ!」と無邪気に喜ぶ横で、エレンは指差しました。
「海の向こうにいる敵…それ全部殺せば、俺たち自由になれるのか?」
このシーンは、エレンの絶望が極まった瞬間です。
彼が夢見ていた「壁の外」は、自由な世界ではありませんでした。
そこにあったのは、差別と憎悪が渦巻く、壁の中と変わらない不自由な世界。
「思ったより自由じゃなかった」
この現実は、自由を求め続けたエレンにとって耐え難い矛盾でした。
彼はこの時、世界に失望したのです。
彼が求めたのは、誰にも脅かされない、何一つ遮るもののない、絶対的な自由。
その理想を実現するためには、この「失望した世界」を消し去るしかないという危険な発想が、彼の脳裏をよぎり始めたのかもしれません。
| 時期 | 認識していた「敵」 | 抱いていた感情 |
|---|---|---|
| 幼少期〜訓練兵団 | 巨人 | 純粋な憎悪、駆逐への執念 |
| 調査兵団〜王政編 | 裏切り者(ライナー達)、王政 | 困惑、正義への疑念 |
| 海到達〜マーレ編 | 世界そのもの | 絶望、諦念、そして覚悟 |
未来を見たことで変化した目標
物語の大きな転換点は、勲章授与式でヒストリアの手に口づけをした瞬間です。
エレンはそこで、父グリシャの記憶を通じて「未来の自分の記憶」を見ました。
その中には、地鳴らしによって人類を踏み潰す、地獄のような光景が含まれていました。
「そんなこと、したくない」
当初のエレンはそう思ったはずです。
しかし、その後の出来事はすべて、彼が見た未来の通りに進んでいきました。
サシャの死も、世界の連合軍の結成も。
彼は未来を知ってしまったがゆえに、その未来に囚われる「奴隷」となりました。
「未来を変えようとしたが、できなかった」のか、それとも「その未来こそが自分の望みだと気づいてしまった」のか。
エレンの中で、目標は「未来の実現」へと固定されていったのです。
平和ではなく自由を選んだ判断
パラディ島を守る方法は、地鳴らし以外にもありました。
ジークが提案した「エルディア人安楽死計画」です。
これは、エルディア人が子供を作れなくすることで、巨人の力を自然消滅させ、世界に平和をもたらすというもの。
功利主義的に見れば、最も犠牲が少ない方法だったかもしれません。
しかし、エレンはこれを真っ向から否定しました。
「ふざけるな」と。
エレンの哲学において、生まれてくることを否定する思想は、最も許しがたいものです。
「俺はこの世に生まれたから(自由だ)」
たとえ世界を滅ぼしてでも、自分たちの生存権を放棄しない。
彼は「屈辱的な平和」よりも「戦って勝ち取る自由」を選びました。
それはあまりにもエゴイスティックで、しかし人間として根源的な叫びでもありました。
エレンの思想が過激化した過程
マーレ潜入を経て、エレンの思想は先鋭化していきます。
彼はライナーに対し、「お前と同じだ」と語りかけました。
「仕方なかった」という言葉で自分の罪を正当化せず、これから行う大量虐殺の罪の重さを理解した上で、それでも進むことを選びました。
彼にとって、ハンジやアルミンたちが模索する「話し合い」は、あまりにも時間がかかりすぎ、不確実なものでした。
ヒストリアを犠牲にして時間を稼ぐ「50年計画」も、彼には受け入れられませんでした。
大切な仲間を犠牲にせず、島を確実に守る方法。
消去法で残ったのが、世界を物理的に破壊する「地鳴らし」だったのです。
彼の過激化は、仲間への愛と、状況への絶望が生んだ必然の帰結でした。
[DMM TVで「宣戦布告」のシーンを視聴する]
※エレンが地下室でライナーと対峙するあの緊張感。アニメの声優陣の演技は鳥肌ものです。
【進撃の巨人】エレンの真の狙い:地鳴らしの果てに見た「終わり」

物語の終盤、エレンはついに始祖の力を掌握し、無数の超大型巨人を世界へと解き放ちました。
虐殺者となった彼ですが、その行動の裏には、誰にも語らなかった緻密な計算と、矛盾する感情が隠されていました。
ここからは、エレンが最終的に目指したゴールと、そのために支払った代償について考察します。
ここでのポイント
エレンが掲げた最終的な目的と世界を救うために世界を壊す思想
エレンの最終目的は、大きく分けて二つありました。
一つは「パラディ島の物理的な安全確保」。
もう一つは「巨人の力が存在しない世界の構築」です。
地鳴らしによって世界の軍事施設と文明を破壊すれば、パラディ島への報復は何十年、あるいは何百年も不可能になります。
「世界を救うために世界を壊す」という矛盾。
しかし、エレンの主観においては、「俺の生まれ育った場所(=世界)」を守るために、「外の世界」を壊すことは論理的に整合性が取れていました。
彼は全人類の幸福ではなく、自分の手の届く範囲の幸福を優先したのです。
仲間を守るための覚悟と自分が憎まれる役を引き受けた理由
エレンはかつて、トロッコの上で仲間に告げました。
「お前らが大事だからだ。他の誰よりも」
その言葉に嘘はありませんでした。
しかし、だからこそ彼は、自分が「世界の敵」となり、仲間たちに自分を討たせるシナリオを描きました。
もしエレンがただ世界を滅ぼして生き残れば、パラディ島の人々は永遠に「悪魔」として記憶されます。
しかし、アルミンやミカサといった「パラディ島の人間」が、魔王エレンを倒せばどうなるか。
彼らは「人類を救った英雄」となります。
エレンは自分の命と引き換えに、仲間たちに「世界と対等に渡り合える地位」と「名誉」を与えようとしたのです。
それは、かつてフリッツ王とタイバー家が行った狂言の、さらに残酷な再演でした。
レベリオ以降の目的の変化と仲間に真実を語らなかった理由
レベリオ区襲撃以降、エレンはミカサに「お前が嫌いだった」と暴言を吐き、アルミンを殴り飛ばしました。
このあまりにも悲しい嘘。
なぜ彼は真実を語らなかったのでしょうか。
それは、仲間を「共犯者」にしたくなかったからでしょう。
もし計画を話せば、彼らは間違いなくエレンを止めようとするか、あるいは一緒に罪を背負おうとするはずです。
エレンは、自分一人を悪者にし、仲間には「正しいことをした人」でいて欲しかった。
だからこそ、わざと傷つけ、突き放し、自分を殺す決断ができるように仕向けたのです。
誰にも理解されず、孤独に死んでいく。
それが、彼が自分自身に課した罰だったのかもしれません。
地鳴らしを選んだ動機と運命を受け入れた思想
地鳴らし発動中、エレンはアルミンに「人類の8割を殺す」と告げました。
中途半端にも見えるこの数字ですが、これは「アルミンたちが止めに来るタイミング」と「地鳴らしの進行速度」の結果であり、同時に「報復不可能なレベルまで文明を破壊できるライン」でもありました。
エレンは運命に抗っているようでいて、実は「未来の記憶」という運命をなぞることを受け入れていました。
すべてが決まっているシナリオの中で、それでも彼は「進み続ける」という意志だけは手放しませんでした。
運命の奴隷でありながら、その運命を自らの意志で完遂する。
その壮絶なパラドックスが、エレンの最期を彩っています。
自分自身を止めさせる計画とヒーローにならない選択
エレンは始祖の力を持っていながら、アルミンたちの巨人の力やアッカーマンの力を奪うことはしませんでした。
「お前たちが俺を止める自由」を残したのです。
これは、彼がヒーローになることを拒絶した証明でもあります。
彼は最後まで「対等な殺し合い」を望みました。
自分を一方的に虐殺する神ではなく、あくまで打ち倒されるべき「人間」として存在しようとしたのです。
自分を殺してくれる誰かを、心のどこかで待ち望んでいたのかもしれません。
世界と敵対する覚悟の意味とエレンが目指した“終わり方”
エレンが目指した本当の終わり。
それは「巨人の消滅」です。
2000年間、エルディア人を苦しめ、世界から恐怖されてきた巨人の力。
これをこの世から消し去るためには、始祖ユミルの未練を断ち切る必要がありました。
ユミルは、フリッツ王への歪んだ愛に囚われていました。
彼女を解放できるのは、エレンではなくミカサでした。
「愛する者を殺してでも、人類のために剣を振るう」
ミカサのその選択が、ユミルに「愛からの解放」を教えたのです。
エレンは、ミカサがその選択をする(自分を殺す)瞬間にたどり着くために、世界を敵に回し続けました。
自分の死こそが、この物語の解決策である。
その覚悟こそが、エレンの「進撃」の正体だったのです。

1話のタイトル「二千年後の君へ」の意味がわかった瞬間、鳥肌が止まりませんでした。すべてはここにつながっていたんですね。
自由のために犠牲を選ぶ価値観と理解されることを捨てた生き方
エレンの価値観は、最後まで「自由」を最上位に置いていました。
しかし、その自由のために彼が払った代償は、自身の命と、世界中の罪なき人々の命、そして自分の人間性でした。
彼は理解されることを諦めていました。
虐殺者が理解されてはいけない、同情されてはいけないと知っていたからです。
だからこそ、彼は最期まで孤高の悪魔を演じきりました。
その生き方はあまりにも不器用で、悲痛です。
最終話で示された本当の願いとエレンの目標は達成されたのか
最終話、「道」の世界でアルミンと話すエレンは、ただの泣き虫な若者に戻っていました。
「イヤだ!ミカサに男ができるなんて…!一生俺だけを想っててほしい!」
この無様なまでの本音。
これこそが、エレン・イェーガーの偽らざる「本当の願い」でした。
世界平和でも、島の存続でもなく、ただ好きな女の子と一緒にいたい。みんなと生きていたい。
そのささやかな願いすら叶えられないほど、彼の背負った罪は重すぎたのです。
結果として、彼の目標は達成されたのでしょうか?
- 巨人の駆逐:達成(巨人の力は消滅)
- 仲間の長寿:達成(主要メンバーは生き延びた)
- パラディ島の永遠の平和:未達成(遠い未来での争いが示唆)
彼はすべてを救うことはできませんでした。
しかし、彼が最も守りたかった「仲間たちの人生」だけは、確かに守り抜いたのです。
[DMMブックスで最終巻34巻を読む]
※最終話の加筆ページには、エレン亡き後の世界の行く末が描かれています。考察派は必見です。
この記事の総括

「進撃の巨人」のエレン・イェーガーという男。
彼は英雄か、悪魔か、それともただの被害者か。
その評価は、見る角度によって永遠に変わり続けるでしょう。
しかし、一つだけ確かなことは、彼が最期の瞬間まで、必死に「生きよう」としたこと、そして仲間を「愛していた」ことです。
この記事の総括
- エレンの目的は、巨人の駆逐から島の存続、そして「巨人の力の消滅」へと変化した。
- 地鳴らしは、対話の不能と未来の記憶に縛られた結果の、悲劇的な選択だった。
- 彼は自ら悪役を演じることで、仲間を英雄にし、呪いの連鎖を断ち切ろうとした。
- その心の奥底には、「ミカサと一緒にいたい」という人間らしい弱さと願いがあった。
- 彼が遺したものは、平和な世界ではなく、「巨人のいない世界」と「自由な未来への選択権」だった。
この記事を読んだ後で、もう一度『進撃の巨人』を読み返してみてください。
1巻のエレンの叫びが、マーレ編の彼の沈黙が、まったく違った意味を持って響いてくるはずです。
物語は終わりましたが、私たち読者の中での「進撃」の考察は、まだ終わらないのかもしれません。


